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神経変性疾患は疾患ごとに特有の障害部位を有し,障害を受けた領域が担う脳・神経機能が失われる。その結果,疾患ごとに特有の症状(認知症・運動失調・異常運動・筋力低下など)が現れる。症状があまりにも多岐にわたるため,多くの疾患に当てはまる統一的な発症機構は,これまで想定されることはなかった。しかし,いろいろな疾患を注意深く観察するといくつかの共通点が存在することに気が付く。例えば,1)発症が中年以降に起こり進行性であること,2)障害部位は異なるにせよ病理像として共通に神経細胞の変性と脱落(消失・死)を示すこと,3)そして優性遺伝形式をとる疾患が極めて多いことを挙げることができる。さらにハンチントン病などいくつかの遺伝性疾患では,この三つの特徴に加えて,4)世代を経るごとに症状が重篤になり,しかも発症年齢が早くなることが観察され「表現促進現象」と呼ばれていた1)。
近年,マシャド・ジョセフ病やハンチントン病など,九つの遺伝性神経変性疾患の原因遺伝子から作り出される伸長したポリグルタミンが神経変性を引き起こすことが判明し,ポリグルタミン病と総称されるようになってきた1,2)。これらの原因遺伝子は全く異なった遺伝子であったが,患者では原因遺伝子内のポリグルタミンをコードするCAGの繰り返し(リピート)数が健常人に比べ異常に多いこと,また,CAGリピートの数が長くなるほど発症が早くなり,症状が重くなることが明らかになった。さらに,次の世代に少しだけリピート数が長くなって伝わりやすいことが判明し,表現促進現象の実体が解明された。さらに,他の遺伝性神経変性疾患(アルツハイマー病・プリオン病・パーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症など)においても,原因遺伝子から作られる異常なタンパク質が細胞内外で凝集・蓄積することによって神経細胞が変性に陥り,脳から脱落していくと考えられるようになってきた1)。本稿では,異常タンパク質の蓄積と神経変性の双方に関わる因子としてVCPをとりあげ,VCPの神経変性疾患の発症における役割に関して最近の知見を紹介する。
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