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DNAの構成成分であるシトシンのメチル化は,遺伝子の発現制御に大きくかかわっている。メスの哺乳類細胞中で起こるX染色体の不活性化や,父母由来のアレルのいずれかが特異的に発現を抑えられるインプリント現象,がん細胞におけるがん抑制遺伝子の発現抑制,組織特異的な遺伝子発現抑制など,シトシンのメチル化が深くかかわっている生命現象は多い。こういった生命現象の研究は,メチル化シトシンを検出する技術の進歩と並行して発展してきた。数年前までは,このようなメチル化シトシンの解析対象は主にゲノム上の特定の領域に限られていたが,近年,DMH(differential methylation hybridization)法1)やMeDIP(methylated DNA immunoprecipitation)-Chip法2)などのマイクロアレイの応用技術の登場により,ゲノム全体のメチル化状態をおおよそ把握できるようになってきた。しかし,これらの技術は,プローブ長や標識したDNAの断片長にその解像度を支配され,決して全てのシトシン残基のメチル化情報を個別に得ることができない。メチル化解析において配列に拘わらず個々の塩基のメチル化状態を知るための唯一の技術は,1992年に開発されたバイサルファイト(Bisulfite:重亜硫酸)処理DNA断片の配列決定法(Bisulfite Sequencing:BS:図1)3)である。
ゲノム上の全てのシトシンのメチル化情報を個々の塩基レベルの解像度で得ようとする要求は,シトシンのメチル化が関わる生命現象の重要性を考えると当然のことである。しかし,BS法によるメチル化解析ではメチル化の頻度情報が重要になり,場合によっては2本鎖ゲノムの両側の鎖をそれぞれ配列決定する必要があり,さらにはさまざまな状態間でその比較をする必要がある。つまり,ゲノムワイドなBS解析を行おうとする場合はゲノムの配列決定以上にリード数が要求されることを覚悟しなければならないのである。これまでは,サンガー法による配列決定に頼る場合は力のある複数の研究室が協力し合わない限り実現が不可能であった4)。しかし,短時間に従来の数桁上回る大量のリードが得られるいわゆる次世代シーケンサの登場でBS法によるショットガンシーケンシング(BSS)法の実現が可能となってきた。すでにシロイヌナズナではBSS法によりゲノム全体のメチル化状態を解析した報告がなされており5,6),マウスでは特定の長さの制限酵素断片だけを対象としたBSSによる解析結果が報告されている7)。われわれも独自にBSS法のプロトコールを考案し,アカパンカビをモデルにそのデータの有効性を確認してきた。本稿では,既存のBSS法で使用されている鋳型調整法を紹介し,その問題点を議論したうえで,われわれが現在開発中の新しい鋳型調整法を紹介する。
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