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シナプスの長期可塑性は記憶や学習などの基盤と考えられ,海馬を中心に種々の脳領域で研究されている。また,シナプス可塑性は,生まれ育った環境に適応した行動がとれるように,発達期の経験を通して神経回路を調整することにも関与する。発達に関わるシナプス可塑性は,大脳皮質視覚野や体性感覚野などで詳しく研究されている。シナプス可塑性には,上昇した伝達効率が長期間持続する長期増強と,低下した伝達効率が長期間持続する長期抑圧がある。最も詳しく解析されている海馬CA1領域の錐体細胞への興奮性シナプスにおいては,シナプス前線維に高頻度(例えば100Hz,1秒)の電気刺激を与えると長期増強が起こり,低頻度(1Hz程度)の刺激を15分程度続けると長期抑圧が起きる。この長期増強の誘発には,高頻度刺激によりシナプス後細胞のNMDA受容体を活性化することが必要で,このようなNMDA受容体依存性長期増強は中枢神経系の多くの興奮性シナプスに見られる。
シナプス可塑性の実験においては,かなり低い頻度(0.1Hz程度)でテスト刺激をシナプス前線維に与え,その刺激によりシナプス後細胞に誘発される反応の大きさによりシナプスの伝達効率を評価する(図1)。CA1の長期増強では,高頻度刺激により長期増強を誘発した後,テスト刺激をしばらくの間止めても,テスト刺激を再開すると増強は持続している(図2A)。われわれは,視覚野における抑制性シナプスの長期増強と興奮性シナプスのNMDA受容体非依存性長期増強では,テスト刺激を中断すると増強が持続せず,反応が元の大きさに戻ることを見出した(図2B)1,2)。したがって,シナプスの長期可塑性には神経活動を維持に必要とするものと,必要としないものがあると思われる。本稿では,神経活動を維持に必要とする長期増強について紹介する。
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