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線虫(雌雄同体)では発生過程において1090個の体細胞が作られる。しかし,そのうち131個はアポトーシスを起こして消滅することが遺伝的に決定されている。一方,ヒトやマウスといった哺乳類では,必ずしもアポトーシスを起こす細胞は遺伝的に決められているわけではない。むしろ個々の細胞が受け取るアポトーシスシグナルと生存シグナルの相対的な量のバランスによって生死が決定する。その結果,必要な細胞が残り,必要のない細胞がアポトーシスによって除かれる。例えば,神経細胞は標的細胞からの生存シグナルを受けた細胞のみが生き残り,適切なネットワークが形成されると考えられている。上皮系の細胞では細胞外基質に接着することが生存に不可欠である。また,免疫系の細胞はサイトカインによって生存と増殖を制御される。この過程で自己抗原に反応する細胞はアポトーシスによって除去され,異物と反応する細胞のみが生き残る。このバランスが崩れ,アポトーシスシグナルが過剰になると神経変性疾患やエイズなどが,生存シグナルが過剰となると癌や自己免疫疾患などが引き起こされると考えられている。このように,哺乳類の発生や病態を理解する上で,生存シグナルとアポトーシスシグナルのバランスについて理解することがきわめて重要であると考えられる1,2)。
これまで,生存シグナルとして多くの分子が報告されている。例えば,ミトコンドリア上で細胞死の抑制に決定的な役割を果たす「生存促進型」Bcl-2ファミリー(Bcl-2,Bcl-xL,Mcl-1など),カスパーゼを直接阻害するIAPファミリー,また転写を介する系ではNF-κB,タンパク質のリン酸化を介する系ではMAPK,PKA,Aktなどが知られている。Ca2+やcAMPといった低分子量セカンドメッセンジャーも生存に関与するという報告がなされている。
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