特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008
5.神経科学
視覚的物体カテゴリーの脳内表現
田中 啓治
1
Keiji Tanaka
1
1理化学研究所脳科学総合研究センター
pp.450-452
発行日 2008年10月15日
Published Date 2008/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100555
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下側頭葉皮質およびこれに至る腹側視覚経路の物体視覚像の弁別および再認における重要性は繰り返し破壊行動実験で示されてきたが,下側頭葉皮質の物体カテゴリー認識における役割は不明であった。サルが顔を見たときだけに活動する一群の神経細胞が下側頭葉皮質に存在することが1972年頃に報告され1,2),その後も光計測と電気的細胞活動記録を組み合わせた研究で3),また機能的磁気共鳴画像法と電気的細胞活動記録を組み合わせた研究でそのような細胞群の存在が確認されている4)。顔というカテゴリーに反応する神経細胞群があれば,ほかの物体カテゴリーに反応する神経細胞群もあってもよさそうである。しかし,顔以外の物体カテゴリーに反応する下側頭葉皮質細胞は見つかっていない。
一方,イヌの像とネコの像をカテゴリー的に弁別する課題でサルを数ヵ月以上訓練すると,前頭前野(前頭連合野)背外側部にイヌの像すべてあるいはネコの像すべてに反応する神経細胞が現れることが報告され5),物体カテゴリーは側頭葉ではなく,前頭前野に表現されると提案された。前頭前野は下側頭葉皮質から視覚的物体情報を受け取るが,さらに視覚情報以外の多くのモダリティーの情報を受け,トップダウン注意の制御などの行動の高次制御を行う部位として知られている。物体カテゴリーを表す神経細胞が前頭前野だけにあるとすると,物体カテゴリーは行動の高次制御の中で初めて生まれてくる概念ということになる。
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