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I.はじめに
手で物を巧みに扱う操作的な運動は霊長類に共通の特徴である。しかし操作するという言葉は,何よりもまず機械や道具の操作に使われる。「人間は道具を使う動物である」といわれるほど,道具の使用は人間に特有の機能と考えられてきた。この考えを根本から変えたのは,Jane Goodall(1963)5)による野生チンパンジーのシロアリ釣りの発見である。東アフリカのコンベ地方のチンパンジーはツタのつるを使って細い釣り竿のようなものをつくり,それをシロアリ塚の穴に差し込んで,付いてきたシロアリをそっと引き出して舐めるという動作を繰り返す。京大霊長研の杉山は最近,西アフリカのギニアで堅いアブラヤシの実を石で叩き割って食べるチンパンジーの行動を観察した18)。彼らは乾燥したアブラヤシの種子を手にいっぱい集めてきて,一つずつ平たい石の上に置き,もう一つの石でコンコン叩いて割り,中の胚を食べるという。これは一種の石器使用の例といってよいであろう。
このように,人間に近いチンパンジーの道具の使用をみると,物体操作にも連続的な進化のプロセスがあると考えざるをえない。われわれが実験に使っているニホンザルやアカゲザルなどのマカク類も,尻だこがあって真っ直ぐに坐ることができるので,人間のように直立二足歩行をはじめる前に手が自由に使えるようになった。そのため彼らの手の器用さは,類人猿も及ばないほどである。ニホンザルは地面にまかれたムギを一粒ずつ手でつまんだり,ミノムシの丈夫な袋を上手に引き裂いたりする。一方,動物にスイッチなどの道具の操作を学習させる方法はSkinner(1938)16)以来,オペラント条件づけとして長年行なわれてきた。したがってサルの生態に合わせた道具をつくれば,実験室の中でサルに手の指を使う精密な操作運動を覚えさせることができるはずである。われわれはそのような考えから,いろいろな種類のスイッチをつくってサルにその操作を訓練し,操作運動に関連した大脳皮質のニューロン活動を調べた。今回は,この実験からわかった頭頂連合野の手指運動関連ニューロンの性質を述べ,サルとヒトに共通な物体操作の脳内メカニズムを考察する。
In this review, we presented the results of our recent studies of the parietal neurons related to the hand manipulation in the alert monkeys19), and discussed about the neural mechanisms of visual guidance of object manipulation. We classified those neurons which were activated during the hand manipulation task both in the light and in the dark as hand-movement-related neurons, and excluded “visual dominant” neurons which were not activated in the dark.
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