特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008
5.神経科学
乳児の言語音声知覚と言語発達
馬塚 れい子
1
Reiko Mazuka
1
1理化学研究所脳科学総合研究センター言語発達研究チーム
pp.448-449
発行日 2008年10月15日
Published Date 2008/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100554
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乳児は世界の言語で使われる大多数の音素の弁別をする能力を持って生まれてくるが,生後12ヵ月ぐらいまでに自分の学んでいる言語で使われない音素はだんだん弁別できなくなっていく。この変化が何時ごろ起こるのかは,母音と子音では異なっており,母音の場合には6ヵ月ごろからすでに母語の母音への特化が始まっていることがわかってきた1,2)。これに対して子音の変化は10から12ヵ月ごろまでに起こるといわれている。このような変化を示す発達過程を,Experience-dependent maintenance(経験に依存した弁別能力の維持)と呼ぶ。無論例外もあり,自分の言語になくて全く聞いたことがなくても弁別能力を失わない音の対もあるし3),逆に最初はうまく弁別できないが成長するにつれて弁別の精度があがるような比較もある4)。日本人の乳児の/r/と/l/の弁別はこの後者に属するようだということが報告されている5)。
同じ時期に,乳児は自分の言語に現れる音素配列の規則や韻律の特性についても学習していることが知られており,生後間もなくはどの言語にも適応可能な「言語一般向け処理」であった乳児の音声処理能力は,生後1年間の間に自分の言語だけを効率的に処理する「母語に最適化した処理」に移行する。
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