特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008
5.神経科学
作業記憶と意識・無意識
苧阪 直行
1
Naoyuki Osaka
1
1京都大学大学院文学研究科実験心理学
pp.444-445
発行日 2008年10月15日
Published Date 2008/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100552
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●作業記憶
作業記憶(ワーキングメモリ,作動記憶とも呼ばれる)はアクティブで目標志向的な短期的記憶であり,高次認知に必要不可欠な注意の制御系を含む記憶システムである1)。言語性や視覚性の作業記憶がある。作業記憶は二重課題や遅延反応課題を用いて評価されることが多い。二重課題では二つの心的作業を並列的に遂行するように求められる。たとえば,言語性作業記憶課題では連続的に提示される短文を音読しながら同時に下線が引かれた単語を憶える(リーディングスパンテスト)。遅延反応課題では遅延時間中に記憶に保持されている内的表象に基づいて反応することを求められる。たとえば,視覚性作業記憶課題では初期画面にあった特定の刺激パタンが遅延時間をおいて,別の刺激とともに後続提示された場合,どの位置にあったかを判断したりする(空間スパンテスト)。短文の場合は意味の理解という処理と,単語の保持という二つの心的作業を求められ,パタンの判断の場合は初期画面の情報の保持と遅延時間後の異同判断という処理を求められる。このような作業はいずれも意識的であるといえる。同様な意識的作業として暗算がある。繰り上がりのある暗算では,桁の繰り上がり情報を保持しながら計算という処理を並行して遂行することが求められる。また,作業記憶は行為のプランのためのアクティブな記憶システムという側面も持っている。これによって,目標を達成するため,段取りをつけて順次目標に向けて行為を実行して行くことができる。このようなプロセスも基本的に意識化されたアウェアネス(気づき)を基盤として働いているが,繰り返しにより慣れが生じてくると自動的,無意識的になる。
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