特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008
5.神経科学
ミラーニューロン仮説をめぐって
酒田 英夫
1
,
村田 哲
2
Hideo Sakata
1
,
Akira Murata
2
1東京聖栄大学
2近畿大学医学部第一生理
pp.442-443
発行日 2008年10月15日
Published Date 2008/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100551
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1990年頃に,イタリアParma大学のRizzolattiなどのグループは,マカクザルの腹側運動前野のF5野において,サルが自己の手や口で,ある動作をした時に反応するニューロンの中に,実験者が同じ動作をするのを見たときにも視覚的に反応するものがあることを発見してミラーニューロンと名付けた1)。もともと彼らは,F5野で小さな物体を親指と人差し指の先端で摘み上げる高度精密把握やコップの中の物体を掬い上げるスクーピングなどさまざまな手の把握運動に先行して選択的に活動するニューロン群を記録していた。このように把握運動の出力に近い領域で発見されたミラーニューロンは,他者の動作を自己の動作と照合して理解することに関わるニューロンと推測されている。
現在までに明らかになっているミラーニューロンの性質は以下の通りである2)。(1)サル自身の動作でも,他の個体や実験者の動作でも最適動作は同じである。(2)物体を対象とする動作でなければ反応しないものが多いが,対象の存在が明らかであれば,把握の動作が途中で隠れて見えなくても反応する。(3)動作を視覚的に観察しているときだけでなく,動作に伴う音を聞いたときも反応するものがある。(4)実験者が道具を使ってつかむのを見て反応,自分の指でつかむときに反応するミラーニューロンもある。(5)一部のミラーニューロンは,サルのコミュニケーション動作(lip-smackingなど)にも反応する。上記の(3)~(5)の性質は,ミラーニューロンがモダリティを超えて動作のゴールを表象していることを示唆する。
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