特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008
5.神経科学
大脳のカラムとその機能
谷藤 学
1
Manabu Tanifuji
1
1理化学研究所脳科学総合研究センター脳統合機能研究チーム
pp.436-437
発行日 2008年10月15日
Published Date 2008/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100548
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●細胞の反応性からみたカラム構造
カラム構造は大脳皮質のユニバーサルな構成原理と考えられている。概念としてのカラムは,皮質表面から白質まで伸びる直径が約0.5mm程度の円柱状の構造をしている。類似した反応性を持つ1万から10万個の細胞を含むクラスターで,このようなカラムがそれぞれの領野において一定の規則に従って配列されていると考える。
初期感覚野ではカラム構造を示唆するはっきりした証拠がある1)。第一次視覚野(17野)をみると,視覚刺激を動物に提示する眼と視覚刺激(線分)の向きの二つの反応特性(眼球優位性と方位選択性)について,大脳皮質の表面に垂直な軸に沿ってよく似た細胞が集まっている。また,右目に提示された0度の線分に応答する細胞集団の隣には0度から少しずれた向きの線分に応答する細胞集団が,その隣にはさらに少しずれた向きの線分に応答する細胞集団が並んでいる。右目に与えられたひとまわりの向き(0度から180度)の線分に応答する細胞集団のセットの横には,左目の線分刺激に対応したひとまわりの向きのセットが並んでいる。皮質表面に沿って眺めると方位の変化は連続的であるから,方位選択性について0.5mmの円柱状の構造を作っているというのは厳密には正しくない。また,ネコの17野では2・3層には両眼性の細胞も多く存在するので,機能円柱があるとしても細胞の性質がその上の層と下の層で全く同じ性質というわけではない。しかし,縦(0度)と横(180度)のどちらの方位によりよく応じるか,どちらの眼からの刺激により多く反応するかという風にひとくくりにとらえれば,概念的なモデルはそれほど実体から外れない。
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