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動物の小脳を破壊した時や小脳の疾患に際しておもに運動症状が現れることから,長い間小脳は運動中枢と考えられてきた。しかし,認知機能の中枢とされる大脳連合野と小脳の間に解剖的な結合路があり,霊長類への進化の過程において両者が平行して発達していることや,小脳疾患において認知機能の障害の起こることがあることから,小脳が運動とは別に認知機能にも関与する可能性が指摘されてきた。小脳疾患に際しての認知障害が運動障害による見かけのものであるとする考えも根強かったが,最近になって下記のような具体的な支持証拠が集まってきた。
第一に,脳画像法によるヒトの小脳の活動が観察できるようになり,認知活動に伴って小脳に活動が起こることが実際に示されるようになった1)。例えば,1)左手の背部に不意に熱刺激が来ることを予期して待つ時や,2)ある刺激に反応してボタンを押すように注意を集中して構える時である。言語を用いる課題では,3)次々にあたえられる名詞に対応する動詞を次々にあげてゆく時(名詞-動詞転換),4)ある文字で始まる違う単語を1分間にできるだけ多く黙ったままあげる時(流暢性試験),5)6文字の組み合わせ4個からある制約のもとに文字の組をつくる時(選択的文字生成)などである。その他,6)黙ったまま10桁の数字を速算する,7)計画力のロンドン塔テスト,8)6文字の列を短時間記憶する時(作業記憶),9)ウィスコンシンカード合わせテスト(カードを色,形,名前のどれであわせる),10)ストループテスト(赤字で書いた緑という文字をどう読むか)を行うときである。11)チェスや囲碁のゲームで指し手を読むとき,12)既知の風景のなかで未来の出来事を思い浮かべるとき(未来視)もそうである。これらの認知的な活動に際しては小脳半球の外側部が活動する。活動部位は右側,左側のどちらか,あるいは両側のこともある(図)。
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