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●色情報の生成
色覚は異なる分光感度特性を持つ錐体光受容細胞の活動を比較することにその基礎がある。下線を付したように比較を行うことが本質的に重要であり,ある錐体細胞が特定の色の知覚に対応しているわけではない。ヒト,類人猿,マカク属のサルは三種類の錐体細胞を持つ。これらは遺伝子レベルでも分光感度特性でもほとんど違いのない相同なものであり,ピークの波長の長いものから順にL錐体,M錐体,S錐体とよばれる。L,M,SはそれぞれLはlong-wavelength-sensitive(Mはmiddle-,Sはshort-)の略である。余談になるが,いまだに三種類の錐体に赤錐体,緑錐体,青錐体という用語をあてて記述していることがしばしば見られる。これはきわめて不適切な用語である。なぜなら,例えば赤錐体という言葉はこの錐体の活動が赤色知覚に対応するという誤解を与える。その結果,色覚があたかもカラーテレビのように,赤緑青の三つの異なる色の合成で生じているかのような,色覚のメカニズムについての根本的な誤解を生じやすくする。また,L錐体とM錐体の分光感度のピークは530~560nm付近にあり,これは緑から黄緑色に相当する波長領域である。これらのことからL,M,S錐体という事実に即した用語を使うことが必要である。
異なる錐体の活動の比較は網膜内の神経回路で生じ,その結果大きく分けて二種類の錐体差分信号が作られる1)。一つはL錐体とM錐体の活動の差分を表す信号(L-MまたはM-L)であり,もう一つはS錐体の活動とL錐体とM錐体の活動の和の差分を表す信号(S-(L+M))である。この二種類の信号が外側膝状体で中継されて,大脳皮質一次視覚野に伝えられる。しかし,網膜の神経回路においてどのような仕組みで特定の組み合わせの錐体活動の差分の信号が抽出されるのかについてはまだ不明である。
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