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はじめに
人体には発生段階での形態形成や恒常性の維持のために,不要な細胞や障害を受けた細胞を除去するしくみが備わっている(図1).これらの有害な細胞の除去に異常が生じると,癌や自己免疫などの疾患の原因となる1,2).健常な場合,疾患の原因となるこれらの細胞は免疫系の貪食細胞で除去されるが,その前段階として,除去される細胞そのものが細胞内在性のしくみで自滅的な反応,すなわち,計画細胞死を誘導する.治療という観点からみると,虚血による傷害を受けた細胞の死をいかに防ぐかが梗塞性疾患治療の要であるし,逆に放射線照射や化学療法剤により傷害することで癌細胞の死を誘導することに利用されている.計画細胞死はそのしくみが生物によって若干異なるものの,最も単純な多細胞生物である線虫からヒトや昆虫まで広く認められる.B細胞リンパ腫などの計画細胞死に異常を伴う疾患やこれらモデル動物の解析がきっかけになり,その後,分子レベルでこの現象を説明しようとする試みが積極的に行われ,現在に至っている.医学的観点から離れて考えても,計画細胞死・生の自己放棄は哲学的にたいへん興味のもたれる現象である.
計画細胞死の多くが核の凝縮と断片化,膜のブレビングによる細胞質の断片化(アポトーシス小体の形成・放出)といった共通の形態学的変化を伴う細胞死すなわちアポトーシスである(図2).こうした特有の形態学的変化は,caspaseを中心とした蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)などによる細胞の形態を規定しているしくみの破壊の結果であり,アポトーシスの定義となる.すなわち,細胞骨格蛋白質,ゲノムDNA,細胞生存に重要な酵素群の分解,次いで細胞膜組成の変化など,いずれもcaspaseの活性化に依存する.こうして当初の計画細胞死の研究は主にアポトーシス,すなわちcaspaseの活性化の機構に注目して行われた.不要細胞内での自己分解は,死という不可逆的な反応としての意味合いに加えて,貪食細胞が標的の死細胞を認識したり,DNAなどの免疫応答を起こすような物質を分解・除去するのを助ける役割ももつ2,3).
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