特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008
1.細胞生物学
小胞体ストレスセンサー
木俣 行雄
1
,
河野 憲二
1
Yukio Kimata
1
,
Kenji Kohno
1
1奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科動物細胞工学
pp.366-367
発行日 2008年10月15日
Published Date 2008/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100517
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真核生物では多くのタンパク質が,小胞体を起点とする細胞内小胞輸送経路に乗って細胞表層に運ばれる。小胞体には多様な分子シャペロンが存在し,分泌タンパク質や膜タンパク質の折り畳みを行う。変異タンパク質の高発現などが原因で構造異常タンパク質が小胞体内に蓄積すると,小胞体内在性分子シャペロンなどの発現が誘導される。この現象は1980年代終わりから知られており,unfolded protein responseと名付けられた。現在では,小胞体ストレス応答と呼ばれることも多い。
小胞体ストレス応答の仕組みは,1990年代に出芽酵母での研究が先導して解明が進んだ。情報伝達経路の起点となる小胞体ストレスセンサーが,小胞体膜貫通タンパク質Ire1である。Ire1はサイトゾル側にキナーゼ活性とRNase活性を持つ。構造異常タンパク質の小胞体への蓄積,すなわち小胞体ストレスに応じてIre1は自己リン酸化し,RNaseとして働く。これは,HAC1遺伝子の転写産物mRNAのサイトゾルでのスプライシングにつながる。ちなみにこのスプライシング反応は,核内での一般的なmRNAスプライシングとは全くの別物である。これにより生じた成熟型HAC1 mRNAは転写因子タンパク質へと翻訳され,分子シャペロンを含め小胞体で働くさまざまなタンパク質が発現誘導される。
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