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MHC(major histocompatibility complex)分子は,マウスの組織移植時に,拒絶反応を決定する主要な抗原として同定された。MHC分子は膜糖タンパク質で,細胞内で抗原となるタンパク質が分解されて生成した8-15アミノ酸長のペプチドを結合して細胞表面に発現する1,2)。このMHC複合体はT細胞によって認識され,免疫応答において中心的な役割を果たす。T細胞が大きくCD4+T細胞とCD8+T細胞の2種類に分けられることに対応し,MHC分子もCD8+T細胞によって認識されるMHCクラスⅠ(MHCⅠ)とCD4+T細胞によって認識されるMHCクラスⅡ(MHCⅡ)の2種類に分けられる。MHCⅠはほとんど全ての有核細胞の細胞表面に,細胞内で合成されるタンパク質(内在性抗原)がユビキチン・プロテアソーム系によって分解されたペプチドを結合して発現,自己非自己のマーカーとして機能し,細胞性免疫発動の鍵となる(direct presentation;DP)。これに対して,MHCⅡは抗原提示細胞(antigen presentating cells;APC)にのみ発現し,CD4+T細胞に対して,細胞外から取り込んだタンパク質(外来抗原)をエンドソーム/リソソームに局在するカテプシンなどのプロテアーゼで分解したペプチドを提示し,主に液性免疫の発現を調節するほかに,細胞性免疫の機能を補完する。
このように,MHCⅠとMHCⅡは,生体内で局在の異なるタンパク質を局在・特異性を異にするプロテアーゼで分解し,生成する異なった種類のペプチド群を異なる機能を持つT細胞に提示する役割を果たしている。したがって,同じタンパク質由来のペプチドであっても,MHCⅠに提示されているペプチドとMHCⅡに提示されているペプチドとでは種類,機能共に異なっている。ところが,近年,MHCⅡに提示されるはずの外来抗原がMHCⅠに提示されるクロスプレゼンテーション(cross presentation;CP)経路が存在し,このCP経路が細胞性免疫の活性化に必須な役割を果たしていることが明らかとなった。DPとCPは表裏一体となって,細胞性免疫による感染細胞や癌細胞の駆除に不可欠な役割を果たしている(図1)。本稿では,この両者を対比しつつ,MHCⅠへの抗原提示の機序を最新の知見を交えて紹介する。
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