特集 シマから学ぶ、プライマリ・ケアの未来—いざ、素晴らしき離島医療の世界へ
【総論】
❸島のイノベーターから見た医療【甑島より】
山下 賢太
1
1東シナ海の小さな島ブランド株式会社
キーワード:
イノベーター
,
限界集落
,
有限な世界
,
幸せな最期
Keyword:
イノベーター
,
限界集落
,
有限な世界
,
幸せな最期
pp.605-606
発行日 2025年6月15日
Published Date 2025/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.218880510350060605
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- 文献概要
「みよちゃん、助けて」。深夜2時、自宅の玄関を叩く大きな声がした。ただならぬ様子に、当時16歳だった私も飛び起きて、とっさにサンダルを履いた。集落の皆から「みよちゃん」と呼ばれる看護師の母の背中を追いかけながら、自分の役割を考える。医師でもなく、看護師でもない、ただの私。医療行為も看護もできなくとも、母の一助になれることがあるかもしれないという一心で、その1秒を急いだ。駆けつけた時、すでに意識はなく静かに横たわる近所のばあちゃん。私は、母の指示のもと携帯電話から病院に電話をした。それからしばらく心臓マッサージと人工呼吸を続けた命の現場。そんなことが日常にある風景が、私の幼少期の島の記憶でもある。
ある時、母が看護師の仕事を続ける中で次の出来事を話してくれたことがあった。母は、その時ステージ4のがん患者を看護していたが、島という環境でできる医療の限界まで手を尽くし、もうこれ以上はできることはないのかもしれないと思っていた時、先生から「手を握ってあげなさい」と言われたという。
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