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英語圏で教育を受けた私は、依頼された課題の中にあるジェンダー・フリーという言葉に違和感を持ちました。ジェンダー・フリーを英語でそのまま解釈すると、“gender free”=「ジェンダーのない」「ジェンダーを取り除いた」という意味になるからです。女性と男性という生物的違いがある限り(境界が明確ではないとはいえ)、性別にまつわる何らかの社会的カテゴリー化は避けられないと思います。たとえ現存のカテゴリーを無くすことができたとしても、また新しいカテゴリーが生まれるだけでしょう。一方、日本で使われるジェ ダー・フリーという言葉は、いわゆる和製英語であり、「ジェンダーからの自由」という意味で使われていることを知りました1。ジェンダーにより個人の能力、思考、行動が制限されない状態を指していると私は理解します。しかし、ジェンダーという文化・社会的カテゴリーがある限り、私たちは皆、やはりジェンダーにより、個人の能力、思考、行動が制限されることを避けられません。なぜなら、私たちの能力、思考、行動などは、最初は親から受け継いだ遺伝子情報から始まるのだけれど、生まれた時からあらゆる環境との相互作用の結果で形成されていくものだからです。シモーヌ・ド・ボーヴォワール曰く「人は女に生まれるのではない、女になる」のです2。人は、社会・文化によって「女」になり、「男」になり、「日本人」になり、「身分」相応になっていくのだけれど、ジェンダーにより一個人として自分の能力、思考、行動を制限させないためには何ができるでしょうか? 個人個人がジェンダーからより自由になる方法(注1)を、宇宙思考とカール・ポッパーの科学的認識論に基づいて考えてみました。
カール・ポッパーによると、科学とは宇宙・現実を説明する試みであり、科学的法則・客観的知識は宇宙・現実から引き出してこられるものではなく、私たちの推測でしかありません3。経験や観測(例:生まれてから今日に至るまで毎日太陽が東から昇った)から、一般法則・知識(例:明日も太陽は東から昇る)を導くことはできないのです(例えば、明日(10月)北極にいるならば太陽は昇らない)(注2)。推測は推測であるから必然的に間違いを含みます。よって常に疑い、批判しなければいけません。無数の実験や観測により推測を反駁・反証し、より正確に深く宇宙・現実を説明できる推測にアップデートしていくのが科学のプロセスです。科学は推測と反駁の繰り返しであり、トライアルアンドエラーで発展し続けてきました。無数の実験と観測により間違い訂正を受け、研ぎ澄まされてきた科学的知識でさえ、必ず未知の間違いを含んでいるのですから、ジェンダーなどの文化・社会的概念は間違いだらけです。私たちがジェンダーからより自由になるためには、ジェンダーには多くの間違いがある、と言う認識から始め、そこからジェンダーを批判し反駁しましょう。
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