連載 職場のエロス・9
豚
西川 勝
1,2
1老人保健施設ニューライフガラシア
2大阪大学大学院臨床哲学博士課程前期2年
pp.84-85
発行日 2002年5月15日
Published Date 2002/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689900483
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鋭い怒声に振り向いたとき,もう止めようはなかった。太い腕からくり出された拳がやせた老人の顔面をひしぐ。長いすを横倒して倒れこみ,床に血が広がる。詰め所前のテレビが置いてある場所でのことだ。周囲の患者は,一瞬気を取られても動こうとはしない。殴った若い男は,何もなかったようにポテトチップスを口に放り込んでいる。看護人のぼくだけが色めき立ち,走り出す。自分が白黒スローモーションの世界に迷い込んだような奇妙な感覚に襲われる。
「おらあっ!何すんじゃ,てめえは」
ぼくは,男の後ろに回り込み,首を羽交い絞めにして威圧する。
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