特集2 新しい教科書「系統看護学講座/精神看護学」を読む
私が思い出してしまったあの出来事
①なぜAさんは退院できたのか
栗田 育子
1
1大阪府立精神医療センター
pp.21-23
発行日 2009年9月15日
Published Date 2009/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100635
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荒廃
精神科に入職してまだ間もない頃のことです。私は女子の開放病棟に配属されました。それまで働いていた思春期病棟では、自らの体験をもとに思春期の危うさに共感できる分、自己の延長線上に患者さんの気持ちを推し量ることができるような気がしていたものですが、慢性的な経過をたどってきた患者さんの多い女子開放病棟では、全く違った世界で生きている人たちと出会った思いがしたのを覚えています。
そのなかでもAさんは、特に私の理解の範囲を超える患者さんでした。彼女は普通に結婚し子どもをもうけたのですが、出産後、家にこもることが多くなり、独り言を言いはじめ、徐々に混乱状態になったのだそうです。もちろん、そんな状態では子どもを育てることも家事をすることもできず、夫に連れられて当院を受診し入院になりました。しばらくすると急性期が過ぎて症状は安定したのですが、夫は現状ではAさんを引き取る気はなく、面会も遠のき、行き場のないまま女子の開放病棟へと移ってきた人でした。
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