連載 精神看護キーワード事典・23
思春期の旅立ち―娘とのひと夏の戦い
萱間 真美
1
1聖路加看護大学・精神看護学
pp.86-89
発行日 2008年3月15日
Published Date 2008/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100490
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こんなに大きくなるとは聞いてなかった
いまや、一番上の娘は18歳、大学一年生となった。子育てをはじめようとするとき、子どもがここまで大きくなったときに何が起こるかなどということは想像すらしなかった。赤ん坊のときには手がかかり、睡眠もたびたび中断された。幼児期は保育園への送り迎えと自分の大学の実習の時間を合わせるために命がけで首都高を車でとばしていた。しかし、まぁ中学生になれば部活に熱中して手が離れ、ましてや大学生ではきっと地方の大学に行ってくれて、家から離れるのだろうと漠然と期待していた。
ところが現実は違った。娘は家から通える大学に進学した。大学生にもなれば、通学がしんどいとか、単位を落としたとか、そういうことにも自分で対処すると考えていた。私自身は大学生になるとき、家から遠く離れて下宿した。その頃まず祖母が亡くなり、続いて父が亡くなり、さらに母が乳がんの手術をしたりして大変だった。だから親に大学のことを愚痴ったりすることはなかったのである。しかし娘は、中学や高校のときのまま、絶えずいろんなことを私に相談する。学会で出張していたら、北海道にまでアルバイト先での対人関係のトラブルを訴える電話がかかってくる。私はとてもうろたえた。「このままでは、この子は自立しないのではないか」という恐れが、精神科の看護師であるがゆえに重くのしかかってきたのである。
今回は、この娘とのひと夏の戦いについてお話ししたいと思う。本当にこれは戦いであった。何との戦いだったのか?それは、長らく子どもの母親であった自分と、もう子どもを独り立ちさせたいと願う自分との戦いでもあったように思える。
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