連載 下実上虚・4
そろそろ自分が看護主任になる番だと思っていたら……
西川 勝
1,2
1井伊掃部町デイサービスセンター
2京都市長寿すこやかセンター
pp.96-97
発行日 2004年11月1日
Published Date 2004/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100342
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ある看護師のため息
そろそろ自分が看護主任になる番だと思っていたら、後輩に追い抜かれてしまった。仕事へのやる気が萎んでいくのをどうしょうもない。
こういう理由で、仕事がイヤになるというのはつらい。だって、人に話せない。自分でもはっきりと見据えるには情けない気持ちだから。黙って呑み込むしかない愚痴なんだ。で、その薄暗い思いが腹の底でとぐろを巻いて、内側から毒を浸みだしてくる。隠したはずなのに、自分の芯を浸食されてしまう。気がついても、引き返す術が見つからない。
ぼくが精神科に看護助手として働きはじめたのは、夜間大学で哲学を学んでいたときだ。職場では、変わり者がやってきたという目で見られていた。妙に本をたくさん読んでいる男で、資格もないのにドクターと難しい話をしたりする生意気な奴だ。おむつ洗いにゴミ捨て掃除、病棟の雑用をしながら患者さんと話し込むときのぼくは、哲学者のような気分に浸っていた。ズボンのポケットにある重い鍵束を握りしめて、精神科医療のあり方を普通の看護者より一段高いところから批判的に考えているつもりだった。学生運動もどきで高校を中退して、普通の人生コースから外れてしまった自分には、無資格の看護人でいること、つまり病院のなかでは患者に一番近いところにいることが似合いの境遇だと思っていた。無資格でいることが、正義だと信じた反体制への志の小さな証だと。
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