書評
『ナラティブホームの物語—終末期医療をささえる地域包括ケアのしかけ』
下河原 忠道
1
1株式会社シルバーウッド
pp.609
発行日 2015年7月15日
Published Date 2015/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688200244
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介護の理想と現実をつなぐおせっかいな医療チーム
本書の著者・佐藤伸彦医師とナラティブホームのスタッフが、当社の運営するサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)「銀木犀」を視察に訪れてくれたときのことである。折しもお昼どき。彼らは、食堂でひとり寂しく座る入居者にいち早く目をつけ、対話を始めた。膝を落とし、目線を合わせ、肩に手を寄せ、やさしくゆっくりと話を聞き出すその姿を、まず遠巻きに見ていた。その出身がナラティブホームと同じ富山県だったこともあり、会話は弾む。やがて、入居者の頬に一粒の涙が。正直言って激しく嫉妬した。普段から生活に密着しているわれわれにもなかなかできないことを、いとも簡単にやってのけてしまうそのチームの連係プレイの凄さに、嫉妬したのだ。それは、われわれがいかに「介護サービスを提供するだけの事業者」であるかを認めざるを得ない体験だった。日本の「最先端医療」とはかくあるべきと感動した。
後日談もある。その入居者の地元の魚をわざわざ「本人宛」に取り寄せ、ほかの入居者へ振る舞う機会まで整えてくれたのだ。著者の人に対する思いやりの強さ。本来、指導者がとるべき行動の模範だと思った。まさに本書で言うところの「やさしさのしかけ」なのだろう。なんともワクワクするしかけではないか。普段から理想と現実のギャップに打ちひしがれている介護士たちへさまざまな「しかけ」を行なっているわが身として、さらに勇気をいただく指導であった。
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