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『ナラティブホームの物語 終末期医療をささえる地域包括ケアのしかけ』―臨床の原点――豊かな人間模様として綴られる地域医療の「物語」
高山 義浩
1
1沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
pp.627
発行日 2015年7月10日
Published Date 2015/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1664200216
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医聖ヒポクラテスは,医療で一番大切なことはクリニコスklinikosであると弟子に示したと伝えられている。クリニコスというのは,「病人の枕元で話を聞くこと」であった。クリニコスは,その後,クリニックclinicとなり,これを明治の先人は「臨床」と訳した。ところが,20世紀の革命的な医療技術の進展によって,医師は患者の話を「聞く」よりも,自分の話を「聞かせる」ことが仕事であると考えるようになっていった。そして,連綿と古代から守り継がれてきたはずの「臨床」の心が遠ざかりつつある。
本書の著者である佐藤は,そんな時代にあってなお,ひたむきに患者と向き合いながら話を聞き,そこにある物語を追い求める医師である。本書には,高齢者医療をめぐって語られた著者の次の言葉が収められている。すなわち,「高齢者医療は,人が,人として,人間の最期の生を援助する高度専門医療である」とし,「必ず訪れる死に対して,何らかの納得を,つまり物語的な理解を,関係性の枠の中でしっかり捉えていく必要があるのではないだろうか」と。そして,技術や制度に縛られる病院では高齢者を物語的に支えられないと直観した著者は,地域の中核病院を辞して,目前の患者たちの残された「生」について真摯に向き合う道を選択する。
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