連載 一器多用・第9回
身体に“非常口”をつくるという発想
岡田 慎一郎
pp.178-179
発行日 2012年2月15日
Published Date 2012/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688102124
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「健康と体育」というテーマで、若い大学生を相手に、介護を中心にした授業を行なっています。そこで先日、緊急時の搬送技術――消防士・救命士の方々が行なう「ファイヤーマンズキャリー」――を教えました。東日本大震災で多くのエレベーターが停止した経験を踏まえ、負傷者や高齢者、障がい者の方の非常時の搬出を、若者にこそ率先して行なってほしいという気持ちを込めてカリキュラムに加えたのです。
ファイヤーマンズキャリーは、相手の骨盤のあたり(腹側)を自分の肩に載せ、肩を中心にうつ伏せに二つ折りにし、その手脚を抱えて運ぶ方法です。女子学生はともかく、男子学生は楽にできるだろうと思って見ていると、予想外に苦戦しています。腰のあたりや片脚を持って抱え上げようとするものの、まともに持ち上げることもできない人がほとんどです。そこで、重心となる骨盤と股関節の中間地点を肩に載せて立ち上がってみようと、手取り足取り教えてみました。ところが、相手を肩に載せたところで腰砕けになったり、最後まで持ち上げられなかったりと、散々な状態です。授業を見学していた60歳代の学部長が、見るに見かねてやってみせ、学生たちを軽々抱えて、拍手喝采を浴びている有様。若者の基礎体力の低下が叫ばれて久しくなりますが、まさにその現場に直面してしまいました。
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