連載 ほんとの出会い・50
イタリアで育てた屹立する孤独
岡田 真紀
pp.384
発行日 2010年5月15日
Published Date 2010/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101609
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- 文献概要
昨秋,安曇野を訪ねる,というバス旅行に参加したとき,しばらく興奮が冷めなかった出会いがあった。たまたま隣の座席に座った年配の女性が,私が会ったこともない伯父をご存知で,伯父の名前から一字とってお嬢さんに名付けるほど近しくしていらしたというのだ。伯父は,戦時中中国に夫婦で渡ったまま,1960年代の初めに中国で亡くなってしまった。だから,戦後生まれの私は会ったことがない。
私にはもう一組中国に残っていた伯父夫婦がいる(この夫婦は後に帰国)。この二組の夫婦は,新しい国をつくるという意気に燃えていた中国の政治家や文化人と親しく交わり,論文や小説を日本語に訳して月刊誌を出していたとのこと。私は帰ってきたほうの伯父夫婦ともあまり話をしたことがなく,バス旅行で知り合ったご婦人から,後に伯父について書かれた本をお借りして,伯父が陳毅副総理と趣味の囲碁を指した翌日倒れ,副総理が葬儀委員長を務めたことなど初めて知ったのだった。この伯父が翻訳に精魂傾けていたことを亡くなって半世紀も経って知り,時も場所も,また書いているものも違うけれども,言葉に向き合って生きていることに,つながり合うものを感じた。
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