連載 読むことと旅すること 人との出会いに魅せられて・2
徒歩で,列車で,飛行機で
服部 祥子
pp.398-399
発行日 2010年5月15日
Published Date 2010/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101610
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旅を楽しむ方法の第一は歩くことにあります。季節のよいときに名所旧跡を訪ねて歩くのはもちろん素敵ですが,何の変哲もない野の道をゆっくり風に吹かれてめぐるのもよいものです。私は峠道がとくに好きで,しばしば歩きます。峠に立つと,行く手の新しい世界と来し方のなじみの世界双方への思いが交錯するようで,わくわくするのです。
先日,人を案内して生駒山中の暗峠を越えました。名前はなにやら未開の地を連想させますが,大和と難波を結ぶ最短コースで,歴史的にも極めて古い峠道です。万葉集にも詠まれていますし,井原西鶴の『世間胸算用』にも,年を越せぬ浪人たちが追いはぎを働き,荷を奪って開けてみたら,金銀ならぬ数の子だったというあわれにもおかしい話の舞台になっているところです。
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