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はじめに
10年ほど前までは,医療や福祉の現場に現れる認知症患者は,中等度ないし重度の人だけであった。その時点では,認知症に対する治療方法はないとして,身体管理と介護を行なうしか手だてがなく,偏見・差別の存在する「夜明け前の暗闇の時代」といえた。
しかし近年,認知症に対する知識が膾炙した結果なのか,病識をもった軽度や境界領域の認知症患者の受診がみられるようになり,抗認知症薬による認知症の治療や介護保険による介護サービスによって認知症が改善したり進行が遅延する状況もみられるようになった。少なくとも「夜が明けて日が昇りつつある時代」へと認知症の世界が変化したといえよう。
さらに現在では,平均寿命の延長や認知症自体の予後の延長による認知症患者の絶対的な増加と,受け手側である介護施設の相対的な減少が生じた結果,認知症患者は地域で生活せざるを得なくなってきている。この状況は,認知症患者が,「単に薬剤を飲み,介護されるだけの存在」から,「地域の中で皆とともに生活する障害者」に立場を変化させられた最大の原因であろう。
そして,老年期の認知症だけでなく,就労中に発症する若年認知症(患)者がみられるようになり,認知症(患)者とは「単に社会に参加するだけの存在」から,「発症しても仕事を継続したり,失業しても再就労するような,より積極的な障がい者」の立場にさらに変化させられたのである。
このような認知症に対する認識の変化のためと思われるが,厚生労動省老健局計画課認知症・虐待防止対策推進室は「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト(平成20年7月)」を発表した後,平成21年度の認知症対策総合支援事業の中で,就労支援を若年認知症対策の1つに掲げた。この動きを補完する意味もあり,「認知症(患)者における就労の意義」について私見を以下に述べてみたい。
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