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はじめに
きわめて頑固なお年寄りに接して困ることがある。本来の性格か認知症による問題とされるのが普通だが,そのなかには,広汎性発達障害をともなう人がいる。説得を受け入れない,あるいは,無理な要求をしてくるので困るというので調べてみると,特定の事象に強いこだわりをもっている人がいる。また,外出できないため施設サービスを利用できない人を調査すると,環境の変化に極端に弱いことがわかる。いずれの場合も,生活の様子を詳しく聞いてみると,3つ組の障害を示す特徴をもっていることから,広汎性発達障害があると推定される。
障害特性によるこだわりやストレスの大きさは,普通の人には想像できないので,理由がわからないことが多い。頑固ならば説得を試みるわけだが,広汎性発達障害者は聴覚情報を取り入れることが難しい特性があるために,言葉での説得は逆効果になる。同じように,環境の変化に適応できない原因を知らないで説得をすると,必ず失敗する。
援助の第一歩は,対象者を発見することである。広汎性発達障害者だと推定されれば,鑑別診断を受けて援助計画をつくるべきだが,自覚のない人を受診させるのは至難である。しかも,全国的に専門医が少ない上に,対象児童が優先される事情もあって,高齢者が診断の機会を得ることは難しい。加えて,高齢者の場合は,「通常,低年齢において発現するもの」という診断基準の裏づけを得られないことが多い。理想をいえば,保健師,看護師,ケアマネジャー,福祉事務所のケースワーカーなど実務担当者が,専門医と連携して援助にあたることが望ましい。とはいえ,今のところは,はるかに遠い目標だといわざるをえない。
ともかく,広汎性発達障害者であると推定されれば,特性に合わせた援助方法を考えることができる。ただし,援助方法はケースバイケースである。そこで,サービス拒否を中心に,いくつかの事例を通して具体的な援助方法を例示することにした。なお,事例は実例にもとづいているが,個人情報保護のために架空の設定にしている。
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