特集 介護保険の苦情相談―どんな苦情があり,どのように対応しているのか
東京都における介護保険サービスの苦情相談の現状と課題―サービスの質の向上を目指して,苦情から何を学ぶか―苦情相談白書より
牧 洋一郎
1
,
河野 洋子
1
,
金子 靖子
1
1東京都国民健康保険団体連合会介護保険部
pp.322-334
発行日 2004年5月1日
Published Date 2004/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100505
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はじめに
今,介護サービス事業者に求められるものとは
介護保険制度は施行から4年が経過し,介護サービスの利用は大きく伸び,高齢者の介護を支える社会環境の整備が進んだ。制度の仕組みについて市民の理解も深まり,概ね順調に運営されているという評価を受けている。
しかし,苦情処理を通して見た介護サービスの内容からは,事業者の都合や利潤が優先され,「利用者の最善の利益を尊重する」「高齢者の尊厳を支えるケアをする」などの介護理念が希薄で,サービスの質を問われている事例が相当数ある。
苦情が出る背景としては,介護保険になって措置(与える)から契約(自ら選ぶ)へと転換し,苦情処理の仕組みができたことなどから,苦情が言いやすくなったこと,サービス利用者の意識改革が進んだことが挙げられる。利用を重ねていくうちに,制度開始初期に比べて求められるレベルも上がってきており,事業者には介護サービスの質の一層の向上が求められているのである。
東京都国民健康保険団体連合会(以下,「本会」と略)が苦情処理で関わった事業者について改善状況を調査したところ,多くの事業者が苦情内容の改善を図っただけでなく,事業運営上の課題と目標を設定し,サービスの質の向上に向けて生き生きと取り組んでいる状況を確認できた。
適切な苦情対応を行なうためには,まず,苦情が生じた原因や背景を事業者が認識すること,利用者と家族に開かれた相談体制を確立することが必要となる。苦情はサービス改善のための情報の宝庫であり,事業者は苦情をサービス改善のきっかけとして有効活用しなければならない。
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