連載 続・白衣のポケット・15
切り取られた生活
志水 夕里
pp.236
発行日 2002年3月10日
Published Date 2002/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686902361
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私はかけ算の九九を病院で覚えた。小学2年生の3学期を入院生活に費やしたからである。子どもだったので,仕事の責任もなく,休んで困る人もいなかったが,親は学習の遅れを気にした。教科書も入院の荷物の中に入っていたが,ベッドの上で開くのは,何やら気後れしたし,やる気もなく,マンガや本ばかり読んだ。ときどき来てくれる院内学級の先生のおかげで,九九くらいは覚えたわけだ。
そうして次第に,学校のない生活や,病室という集団社会にもすっかり馴染む。すると,親や学校の先生が届けてくれる「欠席者への手紙」という,日ごとの授業内容や行事のお知らせを綴った手紙が,とてもイヤになってきたのだった。学校と病院と,2つの世界を中途半端につなぐものが不快なのだ。
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