特別記事
医療事故の予防と紛争解決のための新しいシステム―元判事として医療者と共に患者を救済する道を探る
稲葉 一人
1,2
1京都大学大学院医学研究科医療倫理学分野
2元:大阪地方裁判所
pp.218-223
発行日 2002年3月10日
Published Date 2002/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686902358
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はじめに
今,医療事故を巡って,医療界はマスコミをはじめ社会から厳しい指摘を受けている。今後,患者カルテ等の医療情報が開示され,人々の健康に対する意識が高まり,被害者をサポートする組織が整備されれば,ますます,医療事故の法的な責任を追及する動きは加速されるであろう。
このような状況の中,裁判所で裁判官として医療訴訟を,法務省で検事として薬害訴訟を担当した経験と,現在医学研究科に身を置いていることから,筆者は医師・看護師から,しばしば医療事故に関わる法的な講演を求められる。驚いたことに,講演依頼の趣旨や聴衆の関心は,どのようなミスが法的責任を問われるのか,法的責任をどのようにすれば回避できるのかという点に集中する。米国では医療訴訟が増加し,医療者の防衛的な態度が目立つと指摘されているが,まさに現在の日本の医療者はそれと同じ傾向を示していると言えよう。しかし,これは,何よりも患者にとって不幸なことではないのか。
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