連載 続・白衣のポケット・1【新連載】
光のもとへ
志水 夕里
pp.76
発行日 2001年1月10日
Published Date 2001/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686902310
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引っ越しをした。築30年のぼろアパートから,築6年のマンションへ。すっかり溜め込んでいた,いまとなっては不要品の数々を捨て,大分軽くなったつもりで新居へ移った。新居は,さすがに新しいだけあって,明るい。そこで目立ったのは,持ってきた家財道具の汚さ。暗い部屋に住んでいると,汚れも見えず,気にならなかったし,もともと汚い所では,あえて磨き上げようという気にもならなかったのだ。
私のナース生活も,やっと5年を数えた。「私でないほうが,良い看護が提供できる」と,自信なく思っていた5年前。分からないことと,失敗の恐怖に毎日おびえていた。多分,見えていたのは自分の手もとの一部分だ。今では,恐怖感はそうそうないものの,後輩の看護や,受け持ち以外の患者,上司の方針,先輩と後輩の人間関係,指導の仕方などが気になってしょうがない。対患者以外の世界が,仕事の中で見えてきたようだ。きっと,年を経るにつれて,見えるものも,気にかかることも増えてゆくのだろう。病院全体や,社会のことまで見えてくるのだろう。婦長や副婦長は大変だなー,とまだ傍観者の眼で思いつつ……。
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