連載 ニューヨーク人間模様・10
その気にさせないで
大竹 秀子
pp.860-861
発行日 2000年10月10日
Published Date 2000/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686902024
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人をその気にさせるものが,世の中には,いくつかある。その1つが,「肩書き」。「社長」「博士」「センセイ」なんて人から呼ばれると,鼻が自然にピクつき幸せな気分が広がるなんて,よく考えてみると,いじらしいほど,他愛もない。とはいえ,ただそれだけのために,人間,やおら一生をかけたりもするから怖い。
テレビを見ていたら,こんなコマーシャルが流れていた。広告主は,m&m。m&mは,明治製菓の「マーブル・チョコレート」の元祖,分厚い碁石のような形のころころしたチョコレートを,赤や黄色など明るい色の砂糖の殻が覆っている。m&mのコマーシャルは,このチョコレートの表面に目鼻を描き,細っこい手足をつけたキャラクターでおなじみだ。人間相手に世をすねたような,生意気そうな口をきく。いつもけっして明るくはない,たとえばワラ人形に五寸釘をさしていた人間が,復讐成就を知ってクククッと笑うような,そんな種類のユーモアが特徴なのに,どういうわけか,人気がある。下積みの人の濁ってしまった怨念,いつかはボクだってという期待がくすぶって黒煙を出し始めた感覚,世間に向かって「ざまあみろ」と溜飲をさげたいのは,万国共通の欲望なのだろう。
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