連載 ボランティアがつくり支える病院【最終回】
アメリカのボランティアの真骨頂
西村 由美子
1
1スタンフォード大学アジア/大平洋研究所 医療政策比較研究プロジェクト
pp.474-479
発行日 2002年6月10日
Published Date 2002/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686901655
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ルシール・パッカード小児病院の歴史をたどると,1917年にまでさかのぼることができる。当時,サンフランシスコの街にあったスタンフォード大学医学部付属病院では,小児科医たちは,子どもを襲う結核,ポリオ,リウマチ熱,肺炎などの病気と闘っていた。ペニシリン実用化以前の社会では,これらの感染症は子どもたちの命を脅かす怖い病気であった。
しかし,小児科医の最大の悩みは,実は治療の大変さではなく,むしろ治療に成功した子どもたちの予後であり,子どもたちの大半が退院と同時に劣悪な生活環境に戻らなければならないという問題であった。患児のほとんどが低所得者層の子どもであったために,家庭では十分な栄養や休養がとれず,狭い空間に家族がひしめき合う暮らしは不衛生で,しかも年間を通じて日照時間の短いサンフランシスコでは十分な日光を浴びることもままならなかった。そのため,せっかく退院させても子どもたちの多くは病気が再発し,あるいは病状を悪化させて病院に戻って来たのである。
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