連載 ナイチンゲール―在宅医療へのまなざし・11
医療における人間学
小川 典子
1
1北里大学看護学部
pp.892-893
発行日 1999年11月10日
Published Date 1999/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686900933
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今年の4月,静岡市井川医療福祉センターが県内で初めての医療福祉の複合施設としてオープンした.井川は静岡市に位置するといっても,昭和32年にダムが建設された南アルプス山間の,映画館や本屋もない過疎の村である.静岡市から東海道線で7駅,映画「鉄道員(ぽっぽや)』の撮影にも使われたSLも走る大井川本線に乗り継ぎ17駅,さらに日本で唯一のアプト式機関車が走る井川線の12駅目で,めざす井川にようやく到着する.ギザギザの歯形レールがかみ合って進むアプト式機関車は,ダム建設のための木材を運ぶ必要からできた鉄道である.井川に暮らす人々は,ふるさとが湖の底に沈んでしまった経験をもち,ふたたび一から山の斜面に土地を耕し,自分たちの手で村を作り上げてきた.
ここのセンター長であるY君は,実は私の高校時代の同級生である.彼は自治医科大学の9年間の僻地医療義務を果たした後も,井川におけるただ1人の総合医師として,全人的医療に積極的に取り組み,まさに地域の医療・福祉の要としてがんばっている.
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