特集 エイズ,ATL,STD
エイズウイルス人間学
大島 清
1
1京都大学霊長類研究所
pp.556-562
発行日 1988年7月25日
Published Date 1988/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611207419
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うろたえる世紀末人類
地球が揺れている。その上に住む人間どもがうろたえている。1年ぐらい前だったか,エイズウイルスの名を借りて警告したことがある(『世紀末の病』光文社)。だがエイズパニックはいっこうに治まらぬ。一番厄介なパニックは,エイズをダメ人間の代名詞にすることだ。つまり差別意識である。その上に無恥厚顔が拍車をかける。そこで,もう一度エイズウイルスの立場といったつもりで語りかけてみたい。
エイズに対する差別は,医療のプロである医師が,エイズウイルスを血中には持ってはいるが,まだ発病していない男性の手術を拒否したという事件に端的に現われている。これは,100年前,医師たちの間でコレラ恐怖が流行したのと似ている。コレラ菌は空気伝染などしない。今から思えば噴飯ものだが,同じことが精密医療機器のあふれる先進国で起こっているのである。
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