特別論文 精神医学の基本問題—精神病と神経症の構造論の展望(最終回)
第18章 精神病の人間学的把握の試み(2)—ツットの了解人間学と全篇の総括
内村 祐之
1,2
1東京大学
2財団法人神経研究所
pp.162-173
発行日 1972年2月15日
Published Date 1972/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201858
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人間学的精神医学の1つとしての「了解人間学」
前章で取り扱ったビンスワンガーの現存在分析は,現存在の様態,またはその構造の分析的研究方法を用いて,もろもろの精神障害の裡に隠されている現存在構造の変容を探ろうとするものであった。ここで目標としたのは,従来の精神病理学を補うことではなく,病者自身の全人間性の実態に近づいて,この立場から精神障害を把握しようとすることであった。前章で見たように,ここでは,2,3の精神病理学的症状の名称が時に現われることはあっても,それは副次的の意味をもつにすぎず,全体として従来の精神医学とは全く把握の仕方を異にした学説であった。そしてこの印象は,従来の精神医学の遺産がここではほとんど評価採用されていないことによって,一層強められたのである。
しかし,その一方,この現存在分析のもつ根本理念,すなわち精神医学は人間存在のもつ本性を考慮に入れるべきだという主張は,広い範囲の共感を呼び,いわゆる人問学的方向への努力が各方面で行なわれる機運を生んだ。以下に紹介するツットの了解人間学(verstehende Anthropologie)も,こうした方向への努力の代表的なものの1つであって,しかもここでは,従来の精神病理学その他の領域で得られた知見をも併せて考慮しながら研究を進めている。その意味で,少なくとも私にとっては,現存在分析よりも身近に感じられるものである。
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