連載 かれんと
クルマ依存症
森下 直貴
1
1浜松医科大学
pp.597
発行日 1996年9月10日
Published Date 1996/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686900529
- 有料閲覧
- 文献概要
近頃とても気になることは,信号のない横断歩道の傍らに歩行者が立っていても,ほとんどのクルマが停まらないことである.私が物心ついて以来,また教習所で交通ルールを学んだ時にも,「歩行者優先」の原則は,社会の自明の規範であった.ところが,私が勤める大学の構内や周囲の道路では,クルマは例外を除いて停まらず,歩行者を横目で見ながら,堂々と通過していく.
一旦停止しない訳を学生の1人に尋ねてみた.すると,「むやみに停車すると通行が乱れることになり,かえって危ないんですよ」という答えが返ってきて,私は唖然として二の句が継げなかった.しばらく経って,職場の茶飲み話を聞いて二度びっくりした.その話によると,最近の自動車教習所では,猫などが道路に飛び出してきた場合,急ブレーキをかけると後続のクルマと衝突する危険があるため,そのまま轢き殺すかたちで通過するようにと教えているそうである.してみると,先の学生の説明は,むしろ「模範」解答ということになる.しかし考えてもみよう,そもそもスピードを出していなければ(まれな例外は別だが),飛び出してきた猫を楽々と避けることも,後続のクルマとの衝突を防ぐこともできるはずである.
Copyright © 1996, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.