連載 かれんと
「浜辺はみんなのものだ」
寺田 元一
1
1名古屋市立大学人文社会学部
pp.763
発行日 1996年11月10日
Published Date 1996/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686900412
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1993年3月に,私たちはタヒチのモーレア島で海水浴を楽しもうと浜辺を物色していた.いいビーチはやはりホテルの前にしかなく,どうせ頼んでも無駄だろうとなかば諦めながら,あるホテルのフロントにいた男にきいた時の答えがこれである.ホテルの前の浜辺はプライベート・ビーチに決まっているという先入観を,私たちは見事に打ち砕かれ,そして考えさせられた.土地はホテルのものかもしれないけれど,浜辺や海はみんなのものなのだと.
そのタヒチで,本国フランスの核実験に抗議する運動が高まったのは,1995年の5月から6月にかけてだった.あの男はデモに参加したのだろうか.「ムルロア環礁はみんなのものだ」と言って.シラク仏大統領は残念ながらこうした運動を無視して核実験を強行した.「ムルロア環礁はフランス政府のもの.煮て食おうと爆破して汚染しようと俺たちの勝手だ」とでも言わんばかりに.
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