連載 かれんと
「対岸の火事」も火事!
寺田 元一
1
1名古屋市立大学人文社会学部
pp.681
発行日 1996年10月10日
Published Date 1996/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686900391
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8月15日がまためぐってきた.原爆や空襲の被爆体験が語られ,学徒出陣などで不本意な死を余儀なくされた若者の悲劇がまた語られた.そうした地道な努力が,平和憲法と連動して日本の平和を守るのに貢献している.今後もこうした努力は続けられなければならない.
しかし,51年が経過してみると,その語り方に若干疑問を呈したくなる.最近でこそ従軍慰安婦,朝鮮人被爆者,731部隊,南京大虐殺などが語られるようになったが,それでもなお,一般的にはそれらは戦争体験としては意識されていない.私たちにとって戦争体験は,あくまでも日本人が主体として体験したものに限定されている.しかも加害体験は誰も積極的に語りたがらないから,そのほとんどは被害体験であり,加害性は曖昧化されてしまう.というよりも,「戦争」という抽象的事態が加害者扱いされ,その背後にある政治経済構造や過程,その中でなされた意思決定や責任は顧みられない.
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