私たちの本棚
亡き子に贈る母の思い—石ころの子と生きる 伊藤 まつを 著
松田 ハツ子
1
1南郷村国民健康保険病院
pp.256
発行日 1985年3月1日
Published Date 1985/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543203298
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1,800冊ほどある小さな図書室にあった,黄色く古びた表紙で覆われている『石ころの子と生きる』という本が目に止まり,手にした.仕事を離れて読むには,あまりに悲しい本であるが,著者の生きることへの執念にとりつかれた.
明治生まれの著者は,教育による農村近代化の理想に燃えて小学校教師として赴任後,その当時,白い眼で見られていた"好きづれ",つまり同僚との恋愛結婚,農家の嫁として,妻として今日では想像もつかないあらゆる苦難に耐え,時には自殺寸前の苦悩を越えて,ひたすら自己に忠実に真実と理想を求めて歩み続けた.その中で大正,昭和と激動する世に処しながら,困窮の中で精いっぱい力を注いで7人の子供を育てる.とりわけ長男の清男は,知能は人より優れ,責任感が強く,著者の最も誇りとするに足る子供であり,その清男と共に生きた.本著は,彼を悼む切々たる記録である.
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