連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・188
夕日のやすらぎの赤よ,夜明けの息をのむ極彩色よ
柳田 邦男
pp.422-423
発行日 2022年5月10日
Published Date 2022/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686202158
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子どもにしろ大人にしろ,絵本の中での登場人物(あるいは擬人化された動物)の心模様の描き方は,作者や物語によって多様だ。文章や象徴的な言葉によって表現することもあるが,やはり絵本の場合は,どんな絵の描き方にするかが決定的に重要だろう。そういう場面こそ,読む人のまぶたの裏に焼きついて離れないくらい強い印象がいつまでも残るからだ。
ちなみに,ベルギーの絵本作家ガブリエル・バンサンの場合,鉛筆画による『アンジュール ある犬の物語』においては,何ひとつ目立つもののない広大な浜辺に吹く風をサーッサーッと線を流すように描いた中に,とぼとぼとさ迷う犬の姿を小さくシルエットのように描くだけで,捨てられた犬の疎外感と孤独感と哀しみとを,みごとに表現し切っている。言葉は一言もなくても。私は,その場面を何度見ても,只々圧倒される。
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