書評
家でのこと—訪問看護で出会う13の珠玉の物語
山田 雅子
1
1聖路加国際大学大学院看護学研究科
pp.610
発行日 2021年7月10日
Published Date 2021/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686201907
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何も変わらないけど,訪問看護なんです
計画書には書かれないケア
まだ歩き始めない子どもと暮らしている母親,ごみと暮らしている老婦人,老親のベッドの脇で眠る娘,引きこもり,介護を放棄しているかのような息子,痛い注射を嫌がる女の子……。みんな違う物語の中で主人公として登場する人々です。でもそれは,読者である私が第三者の立場で見た世界で,その世界を主人公の視点から捉えれば,歩き始めてはいないが愛に包まれた親子であるし,ごみではなく大切な品であるし,介護負担ではなく温かい母とのかけがえのない時間であるし,インスタントの味噌汁をうまいと言う父がいます。
そうした物語に第三者としての訪問看護師が登場します。彼らはこうした生活者を前に,何をしているのでしょう。『家でのこと』に描かれている看護師の行いは,生活者に静かに語りかけ,伸びきった爪を切ることから始まり,特別なことはしなくてもその人を認め,独居高齢者の隣人に見守りを頼み,あるときは黙って待ち,連れ合いを亡くした老人をしばらく気にかけてみるといったことです。看護師が計画書に書く内容はほとんどクローズアップされないのです。それがむしろ面白く,そこに訪問看護の本当の価値があると感じることができます。
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