連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・169
子どもが知性に向かって飛躍する瞬間
柳田 邦男
pp.872-873
発行日 2020年9月10日
Published Date 2020/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686201680
- 有料閲覧
- 文献概要
時折,大きな書店に立ち寄ると,一般書や専門書のコーナーだけでなく,必ず絵本のコーナーにも足を運ぶ。平積みにしてある絵本や,棚に表紙が見えるように並べられている絵本を眺めていると,表紙絵に魅せられて,思わず手に取ってしまう絵本が,何冊かある。表紙絵はその絵本のいわば“顔”だから,“顔”がすばらしいと,ついその絵本を手に取ってしまうものだ。
そんな日常の中で,ある日,都内の小さな絵本専門店の新刊コーナーで,私の目に飛び込んできたのは,リアリズムの力強いタッチで黒人の少年を描いた表紙絵の絵本だった。まるいつばのついた帽子を被り,縦縞模様の長袖シャツを着た少年が,やや大型のブルーの表紙の本を両手でいかにも大事そうに胸に抱きしめて立っている。うつむきかげんにして本を見つめる表情は,感動に震えているように見える。タイトルは『ぼくが一番望むこと』。
Copyright © 2020, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.