連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・158
ゆびがなくても,おかあさんになれるんだ
柳田 邦男
pp.876-877
発行日 2019年9月10日
Published Date 2019/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686201395
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夜,帰宅するために,静かなまちのなかをクルマを走らせていると,ふと思うことがある。家々はひっそりと静まり返っている。どの家も屋根の下では,家族が何の問題もなく平穏に暮らしているように感じられるけれど,必ずしもそうではないだろうな。むしろ家庭内で,だれかががんを患っていたり,認知症の親のケアに追われていたり,障害児の養育が大変だったり,DVがあったりなど,何らかの問題をかかえている家が少なくないだろう。そんな思いが,頭のなかを過るのだ。
そんなことを思うのは,病気や障害や事件の取材を長年やってきて,様々な家族の内実を捉えてきたからだろう。だが,家庭内にそうした問題をかかえているからといって,その家庭は不幸なのかというと,必ずしもそうではない。直面する問題としっかりと向き合い,たとえ病気や障害などの問題は変えられなくても,現実を真正面から受け止め,新しい生き方や人生観や価値観を見いだして,心豊かな日々を過ごす例が少なくない。
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