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渾身の1冊である。冒頭で広瀬先生ご自身の体験が圧倒的な迫力をもって語られている。緩和ケアに限らないが,医療の道を志すのには人それぞれさまざまな思いがあることであろう。しかし,その視線は眼前の患者に向けられることはあっても,同時に自分自身に向けられることは多くない。それはつらい作業であり,蓋をしてしまうほうが楽だからである。広瀬先生は,そこに蓋をせず,しっかりと見つめることから本書を始めている。「私は書くことにしました。……グリーフケアにかかわっていく以上,決して葬り去ってはいけないことだとも思っています。一生かかっても払拭できない荷を,人は背負っていかなければならないのだと思うのです」という著者の言葉から,その覚悟が伝わってくる。
こうして,深いところを動かされた余韻をもって第1部を読み進めると,イントロ部分との落差のようなものを感じ,心がついていくのに少し時間が必要であった。これについていろいろと考えてみたが,第1部の冒頭では遺族の語りが紹介されていて,非常に具体的な内容が示されてはいるが,それぞれの語りは具体的なコンテクストから切り離され,項目ごとに分類整理されている中に埋め込まれている。そのため,語りそのもののもつ力が削がれて,著者の概念体系を示す一例として提示されているからではないかと感じた。たとえて言えば,イントロの部分は,読み手の腹の底に直接語りかけてくるような,魂の叫びのように感じられ,それが第1部に入ると急に頭に働きかけるような形となり,急浮上するため,潜函病のような苦しさが感じられるのではないかと思った(これはネガティブに批判しているのではなく,それぞれの文章の違いについて中立的に述べたものと受け止めていただきたい。いずれのスタイルも大切な書き方であると私は思っているがそのギャップを意識しておくことは大切だと思う)。
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