連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・101
少年がはじめて本に魅せられる時
柳田 邦男
pp.1006-1007
発行日 2014年10月10日
Published Date 2014/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686200003
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子どもが物語の世界に惹きこまれて,夢中になって本を読むようになるきっかけは,何だろうか。おそらく子どもの生活の文脈の中で,たまたま何かの出会いがあって,本好きになるのだろうが,その出会いには1人ひとり違ったドラマがあるに違いない。
私自身について言うなら,少年時代に本に惹きこまれて本好きになった決定的なきっかけが3度あった。その最初は,小学校1年生の3学期に急性腎盂炎になって3か月近く休んだ時だった。戦時中で抗生物質の薬がない時代だったので,家で安静にしているだけ。退屈であきあきしていたら,近所の同級生の女の子が世界の少年少女名作集の『三銃士』『巌窟王』『小公子』などを10冊ほど貸してくれたのだ。毎日毎日,胸を踊らせて何度も読んだ。テレビもゲームもない時代で,本当によかったと思う。この読み耽った経験がなかったら,それほど本好きにならなかったろうし,後年作家になることもなかったかもしれない。7歳頃に夢中になるどんな経験をするか,そのことは人生の中でとても大きな意味を持つのだとつくづく思う。
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