連載 おとなが読む絵本――ケアする人,ケアされる人のために・73
“心のあや”を語る絵本たち
柳田 邦男
pp.154-155
発行日 2012年2月10日
Published Date 2012/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686102352
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“心のあや”という言葉がある。綾とは,一般的には,模様を織り出した絹織物のことか,その織物に表わされた斜めの線の交錯する模様のことを指すが,転じて,「言葉のあや」というように,文章表現や言葉の使い方の技巧的な妙味にも使われるし,「難解な事件のあやを解明した」というように,物事の複雑に入り組んだ仕組みのことを一語で表現するときにも使われる。
では,“心のあや”という使い方は,それらのなかのどれだろうか。「事件のあや」という使い方に近いといえるだろう。人の心というものは,喜び,悲しみ,怒り,苦悩など,実に多様に変化するが,喜びにしろ悲しみにしろ,あるいは怒りにしろ苦悩にしろ,瞬間的には心がその感情一色になってしまうことはあっても,少し落ち着いてくると,ほかの感情や思いがからんできて,内実において一面的ではなくなってくることが多い。人の心というものは,単細胞的ではない細やかで複雑な動きをしているものだ。そんな複雑で微妙な心の構造あるいは動きを表わすのが,“心のあや”という言葉だといえる。
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