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はじめに
――スクラブテクニシャン育成の経緯
「マンパワー不足と手術件数増加」「仕事量の増加と安全の保証」。
手術室看護師はこれらの相反する問題に日々直面している。誤解を恐れずに言えば,今以上に完璧を追求した業務を行ない,安全性を今以上に追求するならば,看護師一人当たりが担うことのできる業務量は限定されるのが実情だろう。もしもすべてを請け負い,こなすならば,業務量の過多により人為的なミスを招き,逆に安全性を損なう可能性もはらむ。さまざまなジレンマを抱えながら看護業務を行なっている。
「限られた人数で,日々増加するすべての手術を,安全にこなせ!」どの施設にも共通するこのような危機的な状況が生まれているゆえに,当院手術部では看護師として外すことのできない部分,専門性は何か?という本質を考える機会をもつことができた。検討を重ねるなかで以下のような実情,方向性が見出された。
1.直接介助(術者への介助),間接介助(術者や器械出し看護師の介助)と表現されていた手術看護は「介助」から「患者看護」へと主体的な役割を獲得するよう変遷しつつある。
2.看護の主体性,専門性を発揮するうえでも手術室看護師は外科医を通しての介助に留まるべきではない。
3.欧米では看護師ではなくスクラブテクニシャンが器械出しの大半を担っている。
上記の3点を鑑みて当院では,試験的にスクラブテクニシャン(以下,ST)の育成を決定した。2008(平成20)年,1名の20代男性を常勤職員として採用し,腹腔鏡下胆嚢摘出術に術式を限定してSTとして育成している。
ST育成の検討を通じ,マンパワー不足の解消は無論のこと,器械出しの質を考えるよい機会を得ることができた。さらに,「手術看護の専門性,独自性とは何か」という命題を強く意識できるようになったことは幸いだったと感じている。STの導入は,これまでの手術室看護への誤解を解放し,新人看護師の手術室勤務希望の増加や手術室看護師の離職率の低下につながると信じている。
本稿では,当院におけるST育成にあたっての職務範囲や具体的な教育方法,一定期間運用後の職員による評価,そして今後の課題について報告する。
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