連載 医学のエコーグラフィー・8
「内視鏡」
橋本 一径
pp.1182-1183
発行日 2009年12月10日
Published Date 2009/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686101643
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内視鏡といえば,現代の医学を代表する最先端の医療器具のようにも思われがちであるが,その歴史となると,きわめて古い時代から語りだされることが多い。今日の内視鏡の直接の起源と見なしうる器具が開発されたのは19世紀のことだが,膣や肛門の内部を診察する器具についての言及は,ヒポクラテスの時代のテクストにもなされているし,ポンペイの遺跡からは,実際にそのような目的に用いられたと思われる器具がいくつも見つかっている。「スペクラム(speculum)」(ラテン語で「鏡」を意味する)と呼ばれるこうした器具は,中世においても数多く用いられていたことが知られており,19世紀末から20世紀初頭にかけて,これらの古い医療器具を多数コレクションしていたフランスの医師アモニックは,大胆にもその一つを「よく洗浄した上で」実際に女性に対して用いてみせ,最後にはこの女性から「苦痛を訴え」られることになりながらも,「膣壁の拡張を段階的に行なうのは容易」であったと強弁している1)。
アモニックがこのような実験に及んだのは,スペクラムの発明者として,19世紀初頭の医師レカミエの名がしばしば挙げられることに対して異議を唱えるためだった。「これらの一連のスペクラムは,膣や子宮頸部を探索する器具を発明したのがレカミエだとする伝説を打ち崩すのである」。アモニックはさらに,中世のスペクラムのほうがレカミエのそれよりもはるかに完成されているとした上で,レカミエをスペクラムの発明者だとすることは,「ありもしない功績を彼に帰することになる」のだと断罪する2)。
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